注意して経過を看る方はいたけど、静かな夜勤になるはずだった。
あの叫び声が聞こえるまでは。
あと少しで消灯かと言う時間、ほとんどの方がベッドに入って、何人かの
人たちが談話コーナーで眠るまでの時間を過ごしているはずの時間。
渡り廊下の向こうから叫び声が聞こえてきた。
そっち行った!
そっち行ったぞ!
〇〇さん!と、私を呼ぶ声が聞こえた。
はるか彼方から、黒い物がどすどすと音を立てて走って来る。
数日前に入院した若いお坊様。
黒い着物の袖を羽のようにして私に近づいてくる。
と思ったら、目の前で急ブレーキをかけるように止まった後に
今来た廊下を戻り始めた。
と、その時に、袖から何かが落ちて廊下をゴロゴロと転がっていった。
中にいっぱい水のような物が詰まっていた。
あとで見たが、日本酒の瓶だった。
4合瓶というサイズの酒瓶だったのは後で知った事。
その時、とっさに思ったのは、あ~ガラスが割れたら後が大変だ、
掃除にどれだけ手間がかかるだろう。
後になって、ガラスの瓶と言うのは割れにくい物なんだな~と思った。
比較的に軽症の方たちが、行く手を遮っている。
階段を下りないように両手を広げている。
数日前に入院してから、談話コーナーで、鈴を鳴らしながらお経を
唱えてい方だった。
病棟でお経なんて物騒で、他の方たちの迷惑になる。
何度か注意したけれど、やめるのはその時だけで、僧衣を着替える事も
しなかった。
体の大きな方が、黒い僧衣を翻して走る姿はある種の脅威だった。
入院中の方にケガでもされたら大事だ。
転んだりしたらどうしよう。
とうとう、階段までたどり着いて降りて行った。
階段から転がり落ちたらと思うと、そうそう追いかける訳にも行かなく
警察に保護してもらう事にした。
一緒に夜勤をしている看護師に伝えて、院内で待機することにした。
間もなく見つかって警察に迎えに行った。
その時には静かになっていたので、付き添って病院に戻ってきた。
とっても疲れた夜勤だった。
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