シドニーのニュートラルベイで過ごした日々①

7月の、初めての海外旅行の続きです。

シドニーではニュートラルベイという地域にある、朝食付きの

長期滞在用ホテルで2週間ほどを過ごした。

今は観光地になっている地域だが、当時は船着き場だけがある

小さな町だった。

シドニーは入り組んだ湾に、数多くの船着き場がある大きな町で、

水上バスで観光名所にいくことができる。

近くには、オペラハウスやシドニー動物園を始めとする有名な

観光名所がたくさんある。

シドニー中心にある大きなホテルではなく、長期滞在用のホテルを

選んだのはには理由がある。

あまりあちこち周るのよりも、一ヵ所に留まっての観光を望んだから、と

言うのは表向きの話で、あまりお金を使いたくなかったのが本当の理由だ。

周りは住宅地で、小さなレストランと雑貨屋が1件あるだけの地域。

今は船着き場所も立派になって、ニュートラルベイにもたくさんの

ホテルがあるようだ。

ホテルには、各国からの旅行者の他に、そこに滞在しながら仕事に行って

いる人もいたし、日本人の男性も1名住んでいた。

ホテルの前からなだらかな坂を少し下った所が船着き場だった。

ホテルの一部になるが、裏側に突き出るように部屋があり、そこに

住んでいる人もいた。

このホテルは朝食付きで、簡単な食事が提供された。

朝、食堂に行くと、片言の英語でタマゴの焼き方を聞いてくるウエイトレスが

1名いて、いつもニコニコとしていた。

食事が終わった頃になると、その女性が「フィニッシュ?」と

聴いてくる。

オーストラリアに行ったのは10月だったので、日本では冬に向かう時期

だったが、あちらは春でクリスマス頃には夏になる。

まだ春なのに気温が30度を超える日もあったが、空気はカラッとしており

肌に刺さるような熱気を感じた。

半面、雨模様になると一気に気温が下がるようで、窓から見ていても

降る雨が冷たく感じられた。

そういう日はどこにも出かけられず、部屋から外を眺めていた。

何もすることがなくてテレビを見たが、時代劇の登場人物が英語の

吹き替えで話していたのが面白かった。

そんな時、ノックの音がしてドアを開けたら、管理人が大きな箱を抱えて

立っていた。

中を開けてみるように言われて蓋を開いてみると、日本の小説や漫画が

たくさん入っていた。

以前に宿泊していた日本人が置いて行ったものだという。

退屈だろうからと持ってきてくれたのだ。

雨の日は、自分の家にいるように、部屋の中で読書をして過ごした。

雨上がり、ポカポカとした陽気に誘われるように散歩に出た。

ホテル裏から川のほとりに行き、娘と水遊びをしようとした時、男性の声で

止められた。

ここの水に入ったら『サメ』がいるからだめだって。

後で気づいたが、オーストラリアの一般家庭では庭にプールがあり、

そこで水遊びをしていた。

プールのある家は、ずば抜けて裕福な家庭ではなく、2~3ベッドルーム

にダイニングとバスルーム、キッチンがある程度だった。

サメがいると教えてくれたのは、サンタクロースのように丸い体形のサム

というおじいちゃまだった。

息子さんは独立して別に住んでおり、奥様を亡くした後にスモーキーと

名付けられた大人しい灰色の猫と一緒に住んでいた。

奥様が存命の時に2人で行った日本旅行の話を、それは懐かしそうに話して

くれた。

日本では『納豆』を食べたけど、オーストラリアにも似たものがあると言う。

お昼に誘われ食べたそれは、緑豆に似たもので納豆のような匂いはなかった。

わたしの娘には自分の趣味だと言う彫金を教えてくれて、今でも我が家にある。

日本に戻って何年か経った頃に、オーストラリアからはがき大の封書が届いた。

サムの息子さんからで、サムが亡くなったと言う知らせだった。

そこには、サムは花を愛した

     サムは動物を愛した

     サムは妻を愛した

     何行かそう列記してあり

最後に、サムは家族を愛したと締めくくられていた。

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