黒猫はのろい

黒猫ののろいではなく、黒猫はのろいだ。

同居人だった黒猫の烏之助は、何をするにもゆっくり。

ゆっくりというか、銀四郎よりワンテンポ遅れている。

窓の外をカラスが低空飛行して横切っていくと、

ハッとしたように、身体が動かなくなる。

銀四郎が窓に駆け寄り、窓枠に前足をかけてうなると、

初めて自分もフギャとうなる。

けど、立ち位置は常に銀四郎の後ろだ。

銀四郎の後ろに隠れるようにフギャと鳴き声を上げる。

フギャ~ではなく、フギャと尾を引かない。

ちなみに、この声を電話越しに聞いた人は

何かいるの?ゴジラみたいな声だね。と。

黒猫ではあったけれど、口のあたりにストローの吸い口

くらいの白い毛があった。

可愛いけれど、少しおまぬけにも見えた。

野良猫が窓の外を歩いていても、いつも銀四郎の

後ろをついて回る。

窓から隣の窓、隣の窓から前の窓と銀四郎が走って

窓枠に行くと、ワンテンポ遅れてついて行く。

早いのはご飯の時だけ。

甘えびが好きだった烏之助は、私が台所でえびを料理

していると、手を出してくるから危ない事、この上ない。

この時ばかりは、じっと見ていて電光石火の勢いで

手を出してくる。

上手に爪でえびを一匹引っかけられるときは運が良い。

何も付いていないと、爪をなめている。

まるで、えびを取る事は目的でなかったかのように。

銀四郎はえびは食べない。

牛のたたきが好きだった。

季節のイベントには、銀四郎に牛のたたき、烏之助

には甘えびを買ってあげていた。

いつも二匹一緒。

カーテンのてっぺんまで登って、横に移動するときも

いつも一緒。

カーテンレールはどれほど伸びてしまっただろうか。

1メートル強の棚に上がって長く伸びて寝るのも一緒。

我が家の壁は、あちこちに爪とぎの痕がある。

壁だけ見ると廃屋のようだ、壁だけを見るとね。

家中の壁で被害にあっていないのは、トイレの壁だけ。

トイレは、壁を引っ掻く他に、興味をそそる

物があったからだ。

それはトイレットペーパーホルダー。

カラカラと小さな音に気付いて、トイレを見ると

「何?」って顔をして二匹で振り返る。

その時には、トイレの床はペーパーだらけの状態。

新しいペーパーには爪の痕で穴が開いている。

そのまま丸めて捨てるような事はしない。

ペーパーをもとのように巻いて使う、爪痕つきで。

ある時、二匹の姿が見えなくなった。

サクサクっサクサクって不穏な音が聞こえてきた。

玄関フードに置いてあった猫砂を、一心不乱に

搔き出していた。

声をかけると「何?仕事中なんですが」って顔で

二匹一緒に振り向いた。

猫砂の袋はほぼ空で横には砂の山が出来ていた。

砂の片づけが大変だったのは言うまでもない。

戸を開けられるのは銀四郎だけなので、主導は銀四郎。

銀四郎はプラスチックケースの引き出しも開けてしまう。

寝る時も二匹一緒。

本当に仲良しの二匹だった。

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