仔猫と空耳

猫の銀四郎と烏之助(うのすけ)がいた。

銀四郎は友達の家で生まれた仔猫3匹のうちの1匹だ。

妹猫は、同僚が引き取ってくれて「姫」と名付けられた。

同僚の両親が、文字通りの猫かわいがりだったそうだ。

烏之助は、キャンプ場のゴミ捨て場でフギャと鳴いていた。

真っ暗な中で、光るもの2つだけが目立っていた。

猫とは思わなかったが、生き物なのは間違いないので

保護したら、フギャとしか鳴けない猫だったというだけ。

銀四郎は烏之助を猫かわいがりしていた。

頭のてっぺんの毛がなくなるほどに、なめていた。

名前に烏を入れた程に黒かったから毛のない頭は目立った。

過保護に育ったようで、烏之助は野良だったとは思えない

程に気弱な猫で、いつも銀四郎の後ろにいた。

反対に、銀四郎は仔猫の時から気の強い猫で、私はいつも

噛まれたりひっかかれたりしていた。

そんな私を憐れんで、娘がいつもキャリーに入れて

学校に連れて行った。

気の強い猫だったが、鳴かない猫だった。

鳴き声は、ほとんど聞いた事がなかった。

そんな銀四郎が仔猫の時に行方不明になった。

家からは出ないはずなのに、家中のどこを探しても

見つからなかった。

1階と2階を、銀四郎の名前を呼びながら探したが

見つからなかった。

夜になって、途方に暮れた私は居間でへたり込んでいた。

微かに、…ふにゃー…と言う声が聞こえた。

名前を呼んでも返事がない。

また、しばらく経ってから…ふにゃー………。

息を潜めじっとしていると、確かにふにゃー…

元の職場の同僚からの☎あり。

近くに来ているとの事で、恥ずかしいが、

乱雑な家に招待した。

かまぼこを持ってきてくれた。

私の好物の一つだ。

思い出して来てくれるって、とっても有難い。

        間

ふにゃーの声を頼りに、あちこちを探したが居ない。

私の空耳かも…。

ふにゃーという声は、壁の中から聞こえてきたようだ。

まさかね~、と思いながらも探した。

台所との境目の壁の中から聞こえたような。

入るところなんかないはずなのに。

台所の下にある物を全部だして耳を澄ませると、

やっぱり壁の中にいる気配がする。

壁に穴をあけて、少しづつ広げていったら…居た!

無事に救出!

いまだ壁に穴は開いたままだ。

銀四郎はいなくなっても、鳴かないので見つからない。

押し入れに入っていたり、衣装ケースの引き出しに

入ったままだったり、ベランダにいるのに気づかず、

カギをかけてしまったこともある。

吠える犬も困るが、鳴かない猫も犬も、困りものだ。

我が家の犬も猫も、本当に物静かだ。

飼い主に似たという事はないだろうが。

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