忘れられた畑

これから冬になろうとしているのに、思いだしたのが

生前の母とよく行った山菜狩り。

私は山の中に入るのが嫌いなのに、それは良く誘われた。

誘われるというよりは半ば強制。

「ねえ、山菜さ、そろそろ出てきてるから行こう」

私は当然断る。

それも嫌だって一言。

そんな事で引き下がる母ではなかった。

だってね、行かないか?って誘って来たら

それはもう行くって決まっているんだから。

「あのさ、山の中にイチゴ畑があるんだ」

山の中になんでイチゴ畑があるの。

あっても誰かの畑でしょ。

「いいや、なんかねもう誰のものでもないの」

どっちにしても行かなきゃ収まらない。

じゃ~行こうって言ったら、もう支度が出来ていた。

やっぱりね、行くつもりは満々だったんだ。

家から出て、国道を横切ったらそのまま山に向かう。

母の言うとおりに走っていたら、なんだか本当に山の中。

「そこ曲がって」

え?曲がるって道路ないのに。

「あるよ、昔にねよく人が通ったんだって」

え?昔?いつの昔?

「ん?終戦直後」

ずいぶん簡単にいってくれるもんだ。

道があるという母の言葉に一回車から降りて

地面を見てみる。

私の背丈ほどの草をすかして見ると、地面に

車が通ったように轍がある。

けどね、まだためらうものがあって進めない。

「先に歩くから…バンザイして歩いたら見えるっしょ」

草から手の先だけが見えている母を、車で轢かないように

注意してすすんだ。 

っと、突然、パカっと音を立てたように広場に出た。

バラバラになっているけど、確かにイチゴがあった。

そういう所がいくつかあるみたい。

やっぱり山の中だったけど、花畑があった。

どこも、そこに行くまでの道路がないので持ち主は

いないんだなと思った。

イチゴがとらずに、山菜をたくさん採って家に帰った。

とんでもない時に、時季外れのとんでもない事を

思いだすものだ。

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