戸締りと猫とわたし

いつの頃からだろうか、すきま風がすごく気になるようになった。

靴下を履かない私は、いつも足先が氷みたいに冷たかった。

なら、靴下を履くと良いのにと、自分でも思っていたけど、どう

しても靴下を履く気にはなれない。

そう言えば、亡くなった母も、いつも素足でいたななんて思いだした。

窓が開いていたと発覚したのは今年のお正月の事。

帰省していた娘が気づいて、いったいいつから開いていたのかと、呆れ

られてしまった。

猫たちがいた時はこんな事はなかったのに。

私の家には、以前、猫が2匹いた。

黒猫と茶トラだ。

黒猫は、キャンプ場のゴミ捨て場で見つけて連れ帰った。

真っ暗な中にいた黒猫は、そのまま居たらゴミに埋もれてしまうと思って

連れ帰り、カラスのように黒いので烏之助と名付けた。

色は黒かったけど普段はほとんど見えない位の縞があって、ポサポサした

艶のない毛だった。

もう一匹は、烏之助より先に我が家に来た子だ。

友人の所の飼い猫が産んだ中の一匹で飼い主を探すという事で連れ帰った。

欲しがる人が2人いて、それぞれがお試しに家に連れ帰ったけど、先住猫

が怯えて高いところから降りなくなったと言って、私の所に戻って来た。

銀四郎と名付けた。

父の名前に三郎が入っているので四郎と入れたのだ。

気性の荒さは、獣医さんのお墨付きだ。

その頃のわたしは、夜勤の仕事が多く夜は留守が多かったので、戸締りは

厳重にしていた。

銀四郎の方が、戸を開けることを覚えてしまったからだ。

猫って生き物は、ほんの隙間でも通り抜けてしまう。

そのせいで、銀四郎には何度ヒヤヒヤさせられたか。

ヒヤヒヤどころか、我が家の台所の壁には大きな穴があいたままだ。

一度、外へ飛び出してしまい、見つけた時には、外猫とケンカしたらしく

傷を負っていた。

数日後、舌に潰瘍が出来て獣医さんに連れて行ったところ、ケンカで噛み

ついた時にでも雑菌が入ったようだとの事。

そんな事があったので戸締りには気をつけていた。

他にも、戸締りに注意した理由がある。

留守が多いので、空き巣に入られたらと心配していた。

物を盗られる事よりも、銀四郎の事が心配だったのだ。

気性の荒さに、我が家には数人の限られた人間しか入る事が出来なかった。

家族以外の人間には、玄関や窓で酷く威嚇していた。

もしも、留守の間に空き巣が入ったら、銀四郎が相手にケガをさせる恐れ

があったので、そっちが心配だったのだ。

家に帰ったら、血だらけの人が倒れていた…なんて事を考えたりもした。

幸いにして、そういう事は起きなかった。

今はすきま風が入らないように、しっかりと鍵をかけている。

それを忘れたら、『ど忘れ』じゃなく『ボケ』と言われそうだ。

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