一人で夜勤していて驚いた

「すみませ~ん…」

「すみませ~ん…」

どこからかか細い声が聞こえる。

夜勤の時は、小さな物音でも分かるように耳を澄ませているが、

音は何も聞こえなかったはずなのに。

病室を見回り、消灯を済ませて、書類仕事を終わらせた頃だった。

詰所の入り口を見ても誰もいない…が、え?!

入り口の柱に小さな手と、頭と右目が見えていた。

ニコニコしながら「すみませ~ん、起こしちゃったかしら?」

詰所の椅子に座ってもらい、話を聞くことにした。

「ひと眠りしたらね、め~覚めちゃって」

「そしたらね、ここに電気がついていたから来てみたの」

眠れなくなったんだね、けど転んだりしなくて良かった。

薄いお茶を入れて、2人でお茶を飲みながらお話した。

同じ部屋に徘徊される方がいるので、部屋の入り口にセンサー付きの

マットを置いていたのにどうして鳴らなかったんだろう。

「あのね、踏んだら音がすると思ってね、こうやってきたの」

と、掴まりながらマットを跨いだと教えてくれた。

おばあちゃま、よその病院から転院してきたけど、一人で立ち上がる

事はもちろん、身体を起こす事も出来ないはずなのに。

認知の機能が低下している、寝たきりのはずのお年寄りには、稀に

こういう方がいる。

突然歩き出したりするのだ、それも、ほとんどの場合は夜が多い。

中には、昼間に背中に荷物を背負って、エレベーターの前に立っていた

おばあちゃまが居た事もある。

この時は、その時の状況をご家族い伝えたらひどく怒られた。

歩くなんて、そんな事があるわけがない、退院させたくて病院ぐるみで

嘘をついているんだろうって。

先に話したおばあちゃまは、その後、静かに朝まで眠った。

朝、なにかしたい事はないかと聞いたら、御不浄に行きたいと言う。

おむつにおしっこをすると気持ちが悪いからと話された。

他のスタッフと話し、朝、早めにトイレに連れて行く事にした。

膝が曲がったままで、車いすへの移動も大変だったが、小さな方

だったので何とかトイレに連れて行く事が出来た。

その後は、少しづつ動きが良くなり、車いすのままだったが、廊下の

手すりに掴まって屈伸運動をされるようになった。

寝たきりになると、ずっと寝たきりなのかと気持ちが沈むが、中には

寝たきりから起きたきり?になる方もいるようだ。

60名ほどの病棟に勤務していた時に、他から転院してきた40代の

男性がいて、一人では寝返りも出来なかった。

ある朝、詰所の入り口からひょっこりと顔を出し、「体重測定って

ここだったかい?」

体重測定の放送がかかったからきたよ、とあっさりと言われた。

足元にも危ないようなところは全くない。

この方は、転院前の病院から大量の薬を処方してもらっていたが、

担当医が薬を最小限にしてくれたおかげかと思う。

薬は『毒にも薬にもなる』の典型だろう。

ごくごく稀だが、こういう方たちを目にするのは嬉しい限りだ。

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