熊石の平田内荘でアワビ三昧

仕事から帰ったら、母の家のテーブルに1冊の本が置いてあった。

「北海道の温泉ガイド」草花の本の他に、よく見ているものだ。

何気ない風を装ってはいるが、見て欲しい感が見え見え。

しばらくして、しびれを切らした母。

「熊石に行こう、アワビの養殖してるんだって」

「アワビの養殖と熊石に行く事に、何か関係あるの?」

本当は心優しい娘の私、母の望みは叶えてあげたいと思っているが、

心を鬼にして、母のボケ予防の為にこういう言い方をよくした。

本にはすでにページの角が折ってあり、目当ての所を開いて見せてくる。

熊石でアワビの養殖をしているので、そのあたりに泊まったら

アワビ料理が出ると思う。

だから行きたいなと言う事だった。

母の「行きたい」は「行こう」の決定事項だ。

行かなかったら、思い出しては「アワビ食べたかったな~」と言いそう。

それに、行きたいと言い出すときは、私のシフトを調べた上なので

他に用事があるとかは言っても無駄。

母、優しく「着いたら寝ていても良いから」

夜勤の明けで行くんだから、もちろん着いたら仮眠はするよ。

休みがあまり取れないものだから、どこかに行くときはいつも

夜勤の明けを出発日にする。

熊石の平田内荘に電話したら、運悪く?3人分の部屋がとれた。

宿泊予約時に、母の希望で食事の他にアワビの追加もお願いした。

母が組んでくれた予定に従って、一路熊石へ。

実のところ、熊石は通り過ぎるだけで行った事はないので

結構、楽しみでもあった。

熊石へ向かう峠の中頃だったか、ゴーカートのコースが見えた。

車も停まっていないし人も見えない。

開いてないんじゃないかな。

とりあえず、駐車して入り口に行ってみたら、小さな小屋に

入場券売り場と書いてあり、若いお兄さんがいた。

3人分の母、私、娘の分を支払い、中で使えるというプレー券を

貰ったけどね、やっぱりどこにも人影がないんだよね。

気乗りせずに、ゴーカート乗り場へポタポタと歩いて行く私。

弾むように歩いて行く母と娘。

私の横を、自転車に乗った人がのんびりと追い越して行く。

?あれ?あんな人いたかな?

自転車でゴーカート乗り場の方へ進んでいる人。

ゴーカート乗り場の横に自転車を立てかけ、椅子に座ったのは
あの入場券売り場のお兄ちゃんだった。

好きな車に乗ってください。と。

わざわざ来なくてもねぇ、説明だけで良いのにね。

ゴーカートって、思ったより難しかしくて、ぶつかってばかりのわたし。

しばらく楽しんだ後は温泉へ一直線。

温泉に着いても、夕食までの事は全く記憶にない。

母が楽しみにしていた夕食の時間がやってきた。

部屋にあったテーブルと同じものが持ち込まれ、長~いテーブルが出来た。

次々に並ぶ料理の数々、これでもかと運んでくる。

もともとが海鮮中心らしく、つぶ貝や、貝の刺身の水貝が目立つ。

そこに現れたのが、アワビ尽くし料理。

テーブルの上は、お皿でいっぱい。

それも、ツブとアワビが目立つ。

母「かあさんアワビあるから、ツブ食べていいよ、好きでしょ?」

何とも心優しいお言葉を頂きましたが、目の前はさながら「ツブ祭り」

の様相で、頑張って食べたけど無理。

娘も「もうツブいらない」

ツブ貝もアワビもかなり残ってしまったのは、言うまでもない。

母「かあさん、もう死ぬまでアワビ食べなくてもいいわ」と満足気。

あれ?確か前に、死ぬ前にアワビの煮つけがたくさん食べたいって

言って、私と従兄弟にアワビの〇漁させたのは誰だったかな。

娘を遊ばせている風を装っての…で、帰ってからアワビの煮つけ

を作ったよね。

漁をするにあたっては、漁業権を持っている人に情報を貰ったんだよ。

おまけに、海の巡回が来ないところの情報も仕入れたんだよ。

あれで私は犯罪者の仲間入りをしてしまったよ。

万が一の時は、母にアワビの煮つけを食べさせたくて…てって泣くの?

それでも心行くまでアワビの煮つけを食べさせることが出来て良かった。

「かあさん、もう飽きたわ」と言う言葉を聞くまではね。

そんな母を懐かしく思うが、私が元気なうちで良かった。

今ならどこも連れては行かれなかったものね。

それに、母は長い間、父の留守を守って1人で頑張ってきたんだもの。

良いさ良いさ。

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